3.永久方形区
永久方形区調査は、サンゴ礁の特定の地点に一辺が数メートルの正方形の枠を設置して、その中にみられるサンゴなど固着性の底生生物群集がどのように移り変わるかを長期間にわたって観察する方法です。この方法は、フォトトランセクト調査の結果を補うために行っています。例えば、ある地点のフォトトランセクト法調査でサンゴ群集の被度が20%と求められても、その内訳が少数の大きなサンゴ群体なのか、それとも、多数の小さいサンゴ群体なのかによって、群集の性質やその後の変化は違ってきます。
沖縄美ら海水族館の調査では、1988年に設置、観察を続けてきた2つの方形区に加え、2004年と2007年に5つの方形区を新たに設置しました。これらの方形区すべてで、サンゴの出現種を記録してマップを作成し、群集組成に関するデータを取得しています。
調査結果はkmz形式となっています。
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永久方形区調査方法
永久方形区を新設するときは、海底に2m x 2mの方形枠(塩ビ製)を置き、その四隅に鉄筋棒などを打ち込んで目印とします。
野外作業は3~4名のダイバーで実施します。目印に合わせて方形枠を置き、その枠の真上から全体写真と拡大写真を撮影します。
拡大写真は方形枠内の50cm x 50cmの範囲を、隣り合う区画と約60%程度重なるように、少しずつずらして撮影します。
撮影後は別のダイバーが方形枠内にみられるすべてのサンゴの位置と種名を水中ノートに記録します。
撮影した拡大写真は、パソコンを使用して画像処理(広角レンズの歪み補正など)したうえで、方形区全体のモザイク写真とします。
モザイク写真、全体写真と水中ノートの記録に基づいて方形区のサンゴ群体マップを作成し、個々の群体をトレースして投影面積を求めます。
前回調査との違いを見やすくするため、マップのサンゴ群体は属別に色分けして表示します。
永久方形区調査結果
方形区C2
方形区C2は山川地先の礁原上、水深約2.5mにあります。
ほぼ同じ場所に、1988年から2003年まで追跡調査されていた旧方形区Cがありましたが、目印が消失したため2007年に再設置しました。
1988年、旧方形区Cではスギノキミドリイシが優占し、その被度は79%でした。
1989年の調査では、群体の位置はやや変化しましたが、やはりスギノキミドリイシの被度は68.9%と高いままでした。
その後、山川付近のサンゴ礁でオニヒトデが大発生してスギノキミドリイシの群集はほぼ死滅し、1994年にはサンゴ被度が3%に低下しました。
周辺の海底でもサンゴ群集はほぼ消滅し、ソフトコーラル(ウミトサカ類、ウネタケ類)や海藻が増加しました。
1998年と2003年の調査ではサンゴ被度はさらに低下し、両年とも1%以下でした。
2007年に再設置した方形区Cには、合計16属154群体のサンゴがみられ、合計サンゴ被度は10.9%でした。
群体数が最も多かったのはハマサンゴ属(31群体)、次いでウスチャキクメイシ(10群体)で、群体サイズはおおむね5~10 cm前後でした。
2011年には19属178群体のサンゴが出現し、被度は16.7%でした。2007年と比較して、出現属数、群体数、被度がそれぞれ増加しており、新規加入と既存群体の成長による群集回復がすすんでいます。
特に、キクメイシ科が優占し、とりわけキクメイシ属の群体数と被度が最も高くなっています。ハマサンゴ属は2007年調査から群体数がやや減少しました。
2014年には17属184群体のサンゴが出現し、被度は25.3%ででした。2011年に群体数・被度とも1位だったキクメイシ属は群体数がやや減少したものの、群体サイズが約2倍になっていました(2011年;60群体・平均27.9cm^2 vs 2014年;46群体・平均59.2cm^2)。
コモンサンゴ属も同様に、群体数はさほど変わらず平均群体面積が約3倍になっていました。前回は優占群であったハマサンゴ属は群体数・被度ともに約1/2になっていました。
2017年には14属176群体のサンゴが出現し、合計被度は38.0%になりました。ミドリイシ属(1.3%→12.4%)とコモンサンゴ属(5.4%→10.7%)が2014年との比較で最も被度が増加しており、
これら2 属が全体のおよそ6割を占めてキクメイシ属を圧倒していました。
方形区E
方形区Eはドリームセンター地先の礁斜面、水深約11mにあります。
1988年の設置時には、方形区内に37種214群体のサンゴがみられ、合計被度は23.7%でした。
面積、群体数ともに最も多かったのはクボミハマサンゴ、フカアナハマサンゴ、シワリュウモンサンゴでした。
1989年には種数が43種に(10種減、16種増)、群体数も214から299に増加しました。
方形区全体で新たに定着した群体が多かったため、群体の平均的なサイズはやや小さくなりましたが、大型の群体が成長したことでサンゴ被度は31.4%に増加しました。
1994年には種数が56種に、群体数は469群体とさらに増加し、合計被度は49%でした。このときの優占種はベニハマサンゴでした。
1998年は種数にさほど変化はなかったのですが(53種)、群体数が469から255とほぼ半減し、被度は17%と大きく減少しました。
1994年からの成長が確認されたのはユビエダハマサンゴのみで、大部分のサンゴ群体は小型のものでした。
2003年には種数(28種)と群体数(99)がさらに減り、被度は5%でした。優占種はパラオハマサンゴでしたが、これは他のサンゴがほぼ死滅したあとに残ったものです。
2007年の調査では、種数は28種、群体数は65で、群体数はさらに減少していました。定着している群体の大部分は直径数センチのごく小型のハマサンゴ類で、合計被度は1.9%とそれまでの調査の中で最低になりました。
2011年の調査では24属のサンゴがみられ、群体数は160、被度は8.5%と2007年より増加していました。
優先種群はハマサンゴ属とキクメイシ属で、特に前者は群体サイズが大きくなっており、既存群体の成長が被度の増加につながっているものと思われます。
2014年の調査では24属144群体のサンゴがみられ、2011年から群体数はやや増加したものの、被度は8.9%とほとんど変化がありませんでした。
ハマサンゴ属とキクメイシ属が群体数・被度ともに大部分を占めることは変わっていませんでした。
2017年の調査では32属256群体のサンゴがみられ、合計被度は13.0%に増加していました。小型群体が特に多くなっており、キクメイシ属(30群体→48群体)とハマサンゴ属(62群体→92群体)が顕著でした。
ミドリイシ属とコモンサンゴ属は今回の調査で新たな加入が確認されました。
方形区F
方形区Fは水族館前の礁斜面、水深約7mにあります。
この方形区は2004年に新設されましたが、底生生物の調査は2007年から実施しています。
2007年には方形区内に15属23種137群体のサンゴがみられ、合計被度は4.3%でした。
群体数、被度ともにハマサンゴ類が占めていました(76群体、3.3%)。
最大の群体はユビエダハマサンゴで、それ以外のサンゴはほとんどが直径数センチの小型の群体でした。
2011年の調査では、21属180群体がみられ、被度が9.5%に増加していました。
2011年調査でもハマサンゴ属が優先種群であることに変わりはありませんでしたが、キクメイシ属の群体数と被度の増加が著しかったです(2007年に19群体、被度0.36%に対し、2011年は43群体、被度1.5%)。
2014年の調査では、18属224群体がみられ、被度は16.1%でした。
2011年と同様にハマサンゴ属とキクメイシ属が群体数・被度ともに優占群で、どちらも平均群体面積が増加して全体の被度増加に貢献していました。
2017年の調査では、27属324群体がみられ、合計被度は20.1%でした。ハマサンゴ属が優占していることに変化はありませんでしたが(92群体、7.9%)、
キクメイシ属(64群体→99群体)、カメノコキクメイシ属(13群体→24群体)、トゲキクメイシ属(6群体→14群体)も被度増加に貢献しているほか、ミドリイシ属とコモンサンゴ属の新たな加入も目立ちました。
方形区G
方形区Gは水族館前の礁斜面、水深約3mにあります。
方形区Fと同じ縁脚(礁斜面の峰の部分)の上に、2007年に新設しました。
2007年には方形区内に14属28種93群体のサンゴがみられ、合計被度は2.2%でした。
群体数ではキクメイシ類(47群体、1.0%)、合計被度ではハマサンゴ類(32群体、1.1%)の割合がそれぞれ高くなっていました。
方形区E、Fと同様に大部分のサンゴが小型群体でした。
2011年の調査では、方形区内に出現したサンゴが18属144群体、被度も5.9%に増加していました。
優占種群のハマサンゴ属は群体数が32から49へ、被度が1.1%から2.8%へとそれぞれ2007年から増加していました。
方形区Fと同じく、キクメイシ属の増加も大きかったです(2007年は12群体、被度0.2%に対し、2011年は39群体、被度1.4%)。
2014年の調査では、方形区内に17属144群体のサンゴがみられ、群体数は2011年と同数ながら被度は8.9%に増加していました。
ハマサンゴ属の群体数や平均群体面積は2011年とほぼ同じでしたが、キクメイシ属とトゲキクメイシ属の群体の平均群体面積が増加しており、これらのサンゴの成長が被度増加に貢献したと考えられます。
2017年の調査では、21属243群体のサンゴがみられ、合計被度は14.0%でした。被度は1.3%と全体に占める割合は少ないですが、最も群体数が増加したのはミドリイシ属でした(5群体→44群体)。
キクメイシ属(38群体→52群体)、カメノコキクメイシ属(5群体→21群体)も他属より増加が目立ちました。
方形区I
方形区Iは備瀬集落沖の礁斜面、水深約9mにあります。
2007年に設置したときの調査では、方形区内で24属71種281群体のサンゴがみられ、合計被度は14.5%でした。
群体数、被度ともキクメイシ類が最多ですが(180群体、5.3%)、ミドリイシ類(24群体、0.8%)がハマサンゴ類(27群体、1.0%)と同じくらい着生していました。
他の方形区と同様に、大多数のサンゴは直径 5cm以下の小型群体でした。
方形区内にはソフトコーラル(Sinularia属)の群体があり(被度14.5%)、近くの海底でも大型群体がみられました。
2011年の調査では、出現属数は24属で2007年と変わりはありませんでしたが、群体数は339、被度は24.3%に増加しました。
属別にみると、群体数ではキクメイシ属が、被度はハナヤサイサンゴ属がそれぞれ最大でした。
2007年調査ではハナヤサイサンゴ属は15群体、0.45%であったのに対し、2011年は23群体、7.1%と大きく増加しており、最近4年間でおもに既存群体が大きく成長したことがわかりました。
また、キクメイシ属も群体数が46から133、被度が1.3%から4.6%へと増加していました。
2014年の調査では、方形区内に27属256群体のサンゴがみられ、被度は31.7%に増加していました。出現属数は7つの方形区中で最も多かったですが、群体数ではキクメイシ属(100群体)が突出していたので群集構成は均等というわけではありません。
属別被度ではハナヤサイサンゴ属が17.3%と最大で、前回調査と比較すると平均群体面積がほぼ倍増していました(2011年115.6cm2から2014年256.6cm2)。
キクメイシ属は群体数が増加していますが、平均群体面積は前回よりむしろ減少していました(2011年23.3cm2から2014年15.5cm2)。これらのことから、方形区Iではハナヤサイサンゴ属群体の成長と、キクメイシ属の新規加入との両方が全体の被度増加のおもな要因だと考えられます。
2017年の調査では、26属263群体のサンゴがみられ、合計被度は43.2%に増加していました。特にミドリイシ属(11群体・0.8%→25群体・2.8%)とコモンサンゴ属(4群体・0.5%→15群体・1.3%)の増加と、ハナヤサイサンゴ(27群体・17.3%→29群体・25.5%)の既存群体の成長が顕著でした。
方形区J
方形区Jは備瀬集落沖の礁斜面、水深約7mにあります。
2007年に設置したときの調査では、方形区内で26属61種279群体のサンゴがみられ、合計被度は13.8%でした。
群体数や被度はキクメイシ類が最多でしたが(170群体、6.6%)、群体の平均的なサイズはハナヤサイサンゴ類(31群体、3.6%)やハマサンゴ類(31群体、1.3%)が大きくなっていました。
2011年の調査では、25属270群体のサンゴがみられ、これらは2007年よりわずかに減少したものの、被度が35.8%へと大きく増加していました。
この被度増加は、おもにハナヤサイサンゴ属の既存群体の成長によるものです(2011年は36群体、18.1%)。
2007年調査で優占種群であったキクメイシ科については、とりわけキクメイシ属とノウサンゴ属が群体数、被度ともに増加していました。
2014年の調査では、23属216群体のサンゴがみられました。群体数は前回と比べて54群体減少していましたが、被度は47.5%で前回と比較して7つの方形区中で最も増分が大きかったです。
前回、今回とも群体数では最多のキクメイシ属をはじめ、多くの属の群体平均面積が増加していましたが、前回から被度では1位だったハナヤサイサンゴ属の既存群体の成長が他を圧倒していました。
2017年の調査では、24属254群体のサンゴがみられました。合計群体数が増加していましたが、合計被度が41.1%に減少しており、ハマサンゴ属、ミドリイシ属、オオトゲサンゴ科が増加した一方で、ハナヤサイサンゴ属の大型群体の死亡により、群体数・被度ともに減少した影響が大きかったようです(35群体・28.0%→26群体・15.9%)。
方形区K
方形区Kは備瀬崎北西の礁斜面、水深約9mにあります。
2007年に設置したときの調査では、方形区内で18属36種90群体のサンゴがみられ、合計被度は3.2%でした。
ハナヤサイサンゴ類の比較的大型の群体が着生しており(7群体、1.8%)、被度ではキクメイシ類(32群体、0.4%)やハマサンゴ類(9群体、0.4%)、ミドリイシ類(12群体、0.2%)を大きく上回っていました。
2011年の調査では、16属のサンゴがみられました。群体数は118群体と微増であったが、被度は15.4%と大きく増加していました。
2007年調査と同じく、ハナヤサイサンゴ属が卓越しており(23群体、被度7.2%)、大小のサイズが混在していることから、同属の新規加入が多かったと思われます。
属別でみた場合、2007年はわずかしかなかったミドリイシ属のサンゴが(9群体、被度0.1%)、2011年はハナヤサイサンゴ属につづく優占種群となっていました(15群体、被度1.5%)。
2014年の調査では、方形区内に18属153群体のサンゴがみられました。前回と比較して群体数は増加していたが、合計被度は15.4%から15.0%へとわずかに減少しました。
群体数と被度ともアザミサンゴ属が特に増加した一方で(2011年の10群体、0.7%から2014年は38群体、2.5%)、ハナヤサイサンゴ属、キクメイシ属、トゲキクメイシ属がそれぞれ数群体ずつ死滅したようでした。
2017年の調査では、17属207群体のサンゴがみられ、合計被度は26.4%に増加していました。全般的に群体数、被度ともに2014年から増加していますが、優占属であるハナヤサイサンゴ属(20群体・5.1%→26群体・9.0%)の成長と、ミドリイシ属(22群体・1.8%→45群体・5.5%)、アザミサンゴ属(38群体・2.5%→66群体・4.5%)の新たな加入が貢献しているようです。